第90回金沢解析セミナー(2022/1/24)

日時:1月24日(月) 16:45–18:15 第90回金沢解析セミナー

場所:コロキウム3 (自然科学5号館471) ※ハイブリッド開催(対面+オンライン配信)

講演者: 水野 将司 氏 (日本大学)

タイトル : A stochastic model of grain boundary dynamics

アブストラクト:結晶成長のダイナミクスの理解は材料科学における基本的な問題である.  HerringやMullinsは, 結晶粒界の駆動力は結晶粒界の形状, とりわけ曲率が支配的であること, 三重点で結晶粒界エネルギーが釣り合うことを提唱した. ネットワークにおける曲率流方程式は, 結晶粒界のダイナミクスとの関係, 幾何学的変分問題との関係もあいまって, 様々な研究が行われている.

他方で, 粒界のダイナミクスに結晶粒界の形状以外の影響をコンシステントに加える研究が進んでいる. 講演者はEpshteyn, Liu とともに結晶格子方位差と三重点の挙動を取り込んだ, 新たな結晶粒界の運動モデルを導出した. このモデルは結晶格子方位差を状態変数とする結晶粒界エネルギーに, 最大消散原理を用いることで導出することができる. そして, 曲率を緩和した問題についての古典解に対する長時間挙動を考察し, 数値実験との比較を行った. 数値実験においては, 結晶や粒界が消滅する臨界現象を含めていることに対して, 古典解では臨界現象が起きないことを仮定したため, 長時間挙動の解析では臨界現象を考えることができなかった. しかしながら, 結晶粒界の運動メカニズムの理解には, 臨界現象を捉えることが必要である. さらに, 結晶粒界性格分布(Grain Boundary Charactor Distribution, GBCD)と運動モデルとの関係も明らかでなかった.  結晶粒界性格分布とは, 結晶粒界エネルギーを推定するために導入された, 結晶格子方位差と結晶粒界の長さに関する経験分布である.

本講演では, 結晶格子方位差を状態変数に加えた, 新たな結晶粒界の運動モデルの導出手法を説明する. 次に, 臨界現象における結晶格子方位差と三重点の相互作用を調べるために, ブラウン運動を相互作用とみなした, 確率微分方程式による新たなモデルを提唱する. モデルの解に対する確率密度関数は, 伊藤の公式によりFokker-Planck方程式を満たす. 次に, このFokker-Planck方程式の適切性と解の長時間挙動を重み付き二乗可積分空間で考察する. 最後に, 漸近形に対する同時確率分布を考察することにより, 結晶粒界エネルギー, 結晶格子方位差, 結晶粒界の長さに関する新たな公式を得られたことを説明する.
※ハイブリッド開催(対面+オンライン配信)となります。オンライン参加をご希望の方は,以下のURLから登録をしていただくと,接続情報を事前に送付いたします.
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