第92回金沢解析セミナー(2022/4/22)

日時:4月22日(金) 16:30–18:30 第92回金沢解析セミナー (※2件の講演を行います)

場所:自然科学5号館数学棟4階コロキウム3+Zoomによるオンライン配信
(オンライン(Zoom)の参加登録:
 https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZMtdOyhqD4tE9MxGmH6gl3N-Rr49eKAKA0i )

[講演1:16:30–17:30]

講演者: 今村 悠里 氏(金沢大学・数物科学系)

題 目:対称化過程の二項ツリー近似の収束オーダーについて

概 要:
 本講演では,ある不連続な係数を持つ確率微分方程式の近似誤差に関する結果を報告する.一般的には不連続係数を持つ確率微分方程式の近似誤差は,時間分割数の1/2乗以上によくならないが,今回構成した例では,時間分割の1乗で評価できることを示すことができた.この例は,数理ファイナンスにおけるバリアーオプションの価値に対する数値計算手法として提案された方法に基づいて構成される.バリアーオプションの価値は,ある時刻内においてある領域に滞在する拡散過程の分布関数によって計算されるが,この価値関数は,その拡散過程を,ある意味で対称化したものの分布関数の組み合わせによって表現できる.これはバリアーオプションの新しい計算式を与える。前者の差分近似誤差は,パスの関数の近似であるため,1/2乗のオーダーであるのに対し,後者は,係数が不連続な確率微分方程式の解になるにもかかわらず,数値実験によって1乗のオーダーであることが予想されていた.今回の結果は,不連点が1点であり,それ以外の点では定数であるようなドリフト係数の場合という最も単純な不連続係数の場合に限られているが,その予想に対して証明を与えた.この例においては,これまでに不連続な係数をもつ場合に差分近似がオーダー1になることが知られている唯一の例である (Kohatsu-Lejay-Yasuda 2016). 彼らの結果では期待値を取る関数が不連続点に関して偶関数であるという条件が課されているが,今回の結果は,奇関数の場合という条件下での結果になっている.

[講演2:17:30–18:30]

講演者:和田 啓吾 氏(金沢大学・融合科学系)

題 目:予混合火炎面の伝搬速度や温度分布に対する圧縮性効果

概 要:
 予混合火炎面は,ガスバーナー等で形成される青白い炎のイメージで,その代表的な厚みは0.1mm程度と非常に薄い.そのため,マクロな視点での火炎面は,冷たい燃料気体と温かい既燃気体に挟まれる密度不連続面とみなすことができる.このような扱いは,Darrieus(1938)やLandau(1944)から始まり,質量保存・Navier-Stokes方程式から成る流体力学モデルとして知られている.一方で,よりミクロな視点で火炎面内部に注目すると,発熱を伴う複雑な化学反応が生じており,熱や物質の移流・拡散の影響を考慮する必要がある.熱伝導・物質拡散方程式に焦点を当てた解析は,Zel’dovich&Frank-Kamenetskii(1938)によりなされ,ZFKモデルと呼ばれる.Sivashinsky(1977)は,両モデルを同時に考慮することで,火炎面ダイナミクスを記述する弱非線形モデル(Kuramoto-Sivashinsky方程式)を導出している.しかし,多くの先行研究は非圧縮の仮定(ゼロマッハ数近似)を課しており,有限なマッハ数を考慮することができていない.
 本講演では,有限マッハ数を考慮し,特異摂動法を用いたミクロな解析を行うことで現在までに得られた結果を紹介する.具体的には,火炎面の伝搬速度公式が大きく修正され,非圧縮の際は断熱的であった温度分布は非断熱的な様相を呈することが分かる.このことは,マッハ数により特徴付けられる領域を新たに導入することで理解が容易になり,支配方程式系の解もランベルトW関数を用いて簡潔に記述することが可能となる.