数学にはさまざまな研究分野がありますが,それらはしばしば代数,幾何,解析と呼ばれる三つの分野に大別されます。それらのいくつかを紹介してみましょう。
代数には素数の分布など数の研究を行う整数論,加減乗除を抽象化 した構造を調べる群,環,体の理論,2次式や3次式など 代数方程式の解を研究する代数幾何と呼ばれる分野などが あります。幾何はものの形を探る分野といえ,ギリシャ時代のユークリッド幾何(初等幾何)から始まり,微積分学の誕生によって生まれた微分幾何,連続変形で重ね合わせられる図形を同一視することから生まれたトポロジーと呼ばれる分野などがあります。また,解析には微積分学から発展し自然現象を記述する微分方程式の研究,関数そのものの性質を追求する複素関数論,不確かさの世界を追求する確率論,量子力学などの記述に不可欠な関数解析などの分野があります。もちろん,以上はざまざまな研究分野の一部を挙げたにすぎません。また,どの分野にも関係していて分類が難しいような分野もあり,そのことが示唆するように,代数,幾何,解析は独立したものではなく,それぞれが互いに影響を及ぼしあい,それらの相互作用によって数学が発展しているといえます。それは自立した学問体系の中での相互作用といえ,そこに関わる分野を総称して「純粋数学」と呼ぶことがあります。物理学が自然を研究対象とするのに対して,数学はこれらの相互作用の織りなす「数理現象」を研究対象にしていると言えるかもしれません。
一方,数学は自然科学や工学の諸分野さらには経済学などの社会科学と互いに影響を及ぼしあっており,それらの諸分野と積極的に関わって数学の応用を扱う分野を応用数学と呼ぶことがあります。そのような応用は上に述べた代数,幾何,解析と呼ぶ各分野に見い出すことができます。その意味で,純粋数学と応用数学もまたお互いに影響を及ぼしあい,今日の数学はダイナミックに発展を続けています。ただし,数学の理論の他分野あるいは現実社会への応用は,ただちに行われるわけではなく,時として数十年後に思わぬ形で行われることがしばしばです。また,数学の内的な関心や必要性が思わぬ形で数学の外の世界に影響を及ぼすこともあります。最後にそのような例を挙げましょう。
『直線とその上にない1点が与えられたとき,その点を通り与えられた直線に平行な直線がただ1つ存在する』
というユークリッドの原論の有名な公理(の Playfair による言い換え)があります。晴天の高い空にまっすぐ伸びた白い一本の飛行機雲を連想させます。ところが19世紀になって,この命題を否定しても幾何の体系が矛盾なく構成していくことができるという発見から,新しい幾何学が誕生しました。さらにそれが,20世紀初頭のアインシュタインによる特殊及び一般相対性理論(時空の幾何学)の誕生に大きな影響を及ぼしました。それによって数学は人類の世界観の変革に大きく寄与したのです。